『知財紛争の経済分析』 米国先進事例に学ぶ損害賠償額の算定原則

2007年3月15日
NERAエコノミックコンサルティング編

日本での特許権侵害に関する損害賠償では、特許権侵害者の侵害製品からの利益がそのまま損害額とみなされることがあります。被侵害者が受けた損害は、本来的には被侵害者が失った利益のはずですが、ここでは侵害者が侵害製品から得た利益を被侵害者の逸失利益とみなしていることになります。これを経済的に解釈すると「侵害者が侵害製品を販売していなければ、特許権者の製品が侵害製品にそのまま取って代り、特許権者は侵害者と同様の利益を上げていただろう」と仮定されていることになります。しかし、侵害製品と被侵害製品が完全に置き換わるという状況は現実にはあり得ません。市場には通常第三、第四の代替的製品(競合製品)が存在していて、侵害製品が退出したとしてもその売上の一部は他の競合製品が獲得することになるはずです。また、侵害者の参入によって市場の競争状況にも影響があるはずであり、被侵害製品の価格も侵害製品の参入がなかった場合とは異なるはずです。被侵害者が逸失した利益は、本来は様々な要因を分析しなければ算定できません。侵害者の価格設定によっては、侵害者の利益が被侵害者の逸失利益よりも大幅に少なかったり、低賃金国で生産された侵害製品が日本に流入するという事態も考えられます。

日本企業が特許裁判に巻き込まれることの最も多い米国では、逸失利益や合理的実施料の厳密な算定が求められます。本書はこれらの経済的に合理的な算定方法を解説しており、国際化していく特許紛争に対応するための格好の参考書となるでしょう。

目次

第I部 知的財産権の経済学的考察
第1章 知識と情報の経済学における不確実性
第2章 特許政策の経済学:近年の実証研究の状況

第II部 知的財産権に関する損害の基礎知識
第3章 損害賠償評価の実務
第4章 損害賠償に関する裁判所の考え方の発展
第5章 経済原則に基づかない適正ロイヤルティ算定方法への批判
第6章 特許以外の知的財産権の価値評価:共通の原則と個々の相違 

第III部 知的財産訴訟と損害の経済学
第7章 知的財産訴訟における逸失利益の損害評価に対する合併シミュレーション手法の適用
第8章 知的財産紛争におけるアンケート調査の活用
第9章 知的財産の評価におけるヘドニック特性
第10章 知的財産訴訟におけるイベント分析の活用
第11章 知的財産権に関する損害における金利と割引率
第12章 増分費用の適切な算定
第13章 商業的成功:特許訴訟に適用される経済原則
第14章 医薬品特許権侵害訴訟における暫定的差止命令申立と回復不能損害の経済学 

第IV部 反トラストと知的財産権の交叉
第15章 標準規格と市場支配力
第16章 特許プールの競争分析における問題
第17章 医薬品特許訴訟の和解の競争政策上の意味
第18章 特許権侵害に伴う損害賠償請求評価および反トラストの反訴評価のための市場テスト

第V部 日本および中国における知的財産権保護
第19章 東西の邂逅:経済学における知的財産損害額算定手法の収斂
第20章 中国における知的財産権保護:訴訟、経済的損害、訴訟戦略 

第VI部 知的財産ポートフォリオの管理問題
第21章 リアルオプションによる知的財産の評価
第22章 多国籍企業の無形資産価値と移転価格
第23章 経済的利益をもたらす特許訴訟戦略:どのような場合にライセンスと訴訟を選択するか