『移転価格の経済分析』 超過利益の帰属と産業別無形資産の価値評価

2008年7月19日
NERAエコノミックコンサルティング編

あるべき価格の算定は当事者の果たす機能・リスクおよびそれぞれが属する市場の機能を把握することから始まり、産業構造、バリューチェーンの構成、付加価値の源泉、事業・製品、地域特有の事情を正しく理解することが非常に重要です。このような事業の実態を客観的に分析し、定量的なアプローチを用いて、企業、税務当局、裁判官などの当事者に共通の理解と解決のための方策を提供する重要な材料となるのが経済分析です。本書ではこれまでに経験したケースを基に、日頃のコンサルティング活動で遭遇する論点とそのアプローチについて解説を加え、エコノミストから見た新たな視点や問題解決策を提供しています。

本書には、経済分析の基本的論点だけでなく、いくつかの業界を例にその応用例が収録されている。そこには、まさにいま税務訴訟で争われようとしている論点も含まれており、アップツーデートというにはこれほどのものはない。評者は過去25年あまり各国の移転価格税制を見てきたが、本書は、企業の移転価格担当者のみならずCFO、CEOにも通読していただきたい。もはや移転価格はひとり税制の問題ではなく、関連企業を有する企業人にとっては企業経営の中枢問題の一つとして真摯に捉える必要のある分野だからである。

横浜国立大学大学院・教授 川端康之(「推薦の辞」より)

目次

序章 移転価格における経済分析の役割

第I部 移転価格分析の基本的なプロセス
1章 移転価格分析における機能とリスク—自動車産業を例として
2章 移転価格分析における比較可能性の評価基準
3章 利益法適用における留意点
4章 比較対象企業分析と選定プロセス
5章 利益法における利益水準指標(PLI)の選定—差異に影響されやすい指標、されにくい指標 

第II部 差異調整
6章 バランスシート項目の差異調整
7章 会計上の差異調整
8章 為替リスクの差異調整
9章 政府の介入—政府規制と補助金に関する配慮 

第III部 無形資産の移転価格
10章 無形資産の定義、所有権、評価方法をめぐる諸問題
11章 業界別の無形資産の特徴
12章 個別ケースによる考察—製薬業界
13章 個別ケースによる考察—自動車産業
14章 個別ケースによる考察—電機業界
15章 個別ケースによる考察—医療機器業界のマーケティング無形資産の認定
16章 中国における無形資産の定量分析と機能調整

第IV部 移転価格分析上の論点
17章 役務提供取引—役務提供取引の株主活動、無形資産取引の境界線
18章 ロケーション・セービング—新興国の低賃金メリットは誰のものか
19章 第三国生産子会社への生産機能シフトに伴う取引形態の多様化
20章 アームズレングス価格の「幅」—比較可能性の不完全さを担保する「のりしろ」
21章 連結利益水準におけるアームズレングス価格の点と幅
22章 天然資源ビジネスにおける移転価格
23章 中国の移転価格税制