日系自動車部品メーカーの独禁法違反行為に伴う米国・カナダにおける集団民事訴訟(クラスアクション)のサポート

概況

日系自動車部品メーカーF社は、自動車部品の販売に関して他社と行った情報交換行為が価格カルテル行為に該当し米国独占禁止法に違反したとして、米国司法省により罰金を課せられました。それに伴い、米国における同部品の直接・間接購入者がF社を含む複数の自動車部品会社を被告として集団民事訴訟(クラスアクション)を提起しました。

NERAの役割

NERAは日米の弁護士事務所と連携しF社の訴訟支援のための経済分析サービスを提供しました。

NERAニューヨークオフィスと東京オフィスが連携し、当該情報交換による部品価格の上昇効果や購入者への影響額の経済分析を行い、F社による当該行為による損害額を算定しました。また、原告がクラスを構成していないことを示す経済分析も行い、最終的に原告に提出する報告書を作成しました。また、様々な想定の下での損害額算定を行い、和解交渉の戦略立案のための資料を作成しました。

損害額の算定に係る分析では、NERAは公表データ・F社から提供された定量データおよび当該産業における競争実態に関するヒアリング結果を詳細に分析しました。

その結果、当該情報交換が行われた期間中でさえもF社は米国におけるシェアを急拡大していた等の事実から、当該情報交換の価格カルテルとしての実効性は極めて弱かったとの分析結果を得ました。また、定量データから当該情報交換による部品価格上昇額の算定を行い、仮に、当該情報交換に価格カルテルとしての実効性があったとしても、それによる価格上昇率は、高く見積もっても、米国の同種の訴訟において想定される「相場」よりもかなり低い水準であることを明らかにしました。

また、原告がクラスを構成していないことの立証に係る分析では、自動車の購買データ等の分析を行い、また、経済学における研究論文の知見を踏まえ、当該カルテルにより自動車部品価格が上昇したのだとしても、自動車の入手と処分の方法によって各購入者に生ずる損害は大きく異なることから、原告はクラスを構成していないとの分析結果を得ました。

これらの分析結果を踏まえ、原告がどのような範囲の損害についてF社に対して損害賠償請求を行うか、価格上昇が直接・間接購買者の購入額にどの程度転嫁されるのか等、さまざまな条件の下で原告が請求してくる可能性のある損害額の算定を行いました。これにより、F社が原告に対してどのような主張を行った場合にどのような結果が予想されるかについての具体的な検討が可能となり、和解交渉戦略の立案が効率的に行われることになりました。

結果

F社は、米国の同種のクラスアクションにおける相場とされている額よりも十分に低い和解金額で、早期に原告側と和解することに成功しました。これにより、トライアルへの突入とそれに伴うディスカバリーに大幅なリソースを費やすことを回避できました。また、本件では和解の遅延が和解条件の大幅な悪化をもたらすと予想されていましたが、和解条件が悪化する前に和解に至りました。

原告側から、NERAの厳密かつ客観性の高い経済分析に基づく報告書に対して一切の反論が生じなかったことが、早期の和解につながったと考えられます。