『証券訴訟の経済分析』 日米の事例動向と損害立証アプローチ

2010年1月19日
NERAエコノミックコンサルティング編

米国の証券訴訟では多くの場合、市場における情報開示と株価変動との関連が検証の対象となる。特に開示義務違反の場合、特定の情報開示、非開示がどのような影響を株価にもたらしたかを合理的に説明できなければ、不法行為と損害との間の因果関係や損害額の推定が困難になる。

このような課題に対して、経済学は不実表示と株価反応との間の関係、すなわち損害因果関係の立証や損害推定に応用が可能な理論的枠組みを提供し、裁判所もその分析結果を科学的証拠として積極的に採用している。

日本においても、虚偽記載等に基づく多額の損害賠償を請求する証券集団訴訟は増加する傾向にある。ただし、米国と比べれば証券訴訟の判例も十分とは言えず、証券訴訟における損害立証についての考え方が確立されている状態にはない。

本書は、日本の証券訴訟において考慮すべき問題を経済学的な立場から紹介する。近代ファイナンス理論の成果が、投資のためのツールとしてだけではなく、損害賠償という法律的問題の解決のための枠組みとしても活用され、現代の証券法制の土台になっていることなどについても平易に解説している。

目次

第1章 米国証券訴訟の概要
1) 証券訴訟の制度と歴史
2) 証券集団訴訟のトレンドと主な事例
3) 産業別・原因別の訴訟動向
4) 原因別動向
5) 証券集団訴訟における解決の動向
6) サブプライム関連訴訟とその背景

第2章 日本の証券訴訟の概要
1) 証券訴訟と規制の歴史
2) 証券訴訟件数の動向
3) 証券取引等監視委員会の執行の動向 

第3章 情報開示と損害
1) ディスクロージャー制度
2) 不実開示と民事責任
3) 現実損害賠償方式と原状回復方式
4) 重要性
5) 将来指向情報
6) 見積りや推測を含む会計情報
7) リスク情報の開示
8) 公表日
9) 付随イベントと付随リスク
10) 取引因果関係
11) 損害因果関係
12) 効率的市場
13) 効率的市場理論に対する批判
14) 不完全な効率的市場の下での因果関係
15) 効率性の検証
16) 日本の市場の効率性

第4章 イベント分析およびその他の分析手法
1) 科学的証拠の採用基準
2) イベント分析の概要
3) その他の損害算定手法
4) イベント分析の問題点
5) 重要性の判定
6) イベント分析の有用性
7) オプション取引における損害額の算定
8) ブローカー・ディーラー紛争における分析手法 

第5章 ケーススタディ
1) 西武鉄道事件
2) ライブドア事件
3) レックス・ホールディングス事件