企業結合計画に反対する企業からの依頼

概況

2015年、東京エレクトロンとアプライドマテリアルズは、米国司法省の承認が下りないということを理由に経営統合を取りやめました。この背景には、当該経営統合計画に反対する数多くの企業が存在していました。このように、企業結合計画に対して、ライバル企業や顧客企業から大きな反対の声が上がることがあります。他にも、例えば、2008年のマイクロソフトによるヤフー買収提案にグーグルは反対の意見を表明し、BHPビリトンによるリオ・ティント買収提案(及び、その後の両企業のオーストラリアの鉱山事業のJV計画)に対しては世界各国の製鉄会社が大反対しました。日本においても、2007年の王子製紙による北越製紙買収計画発表の際には、北越製紙だけでなく日本製紙や大王製紙が大反対する活動を展開したことは記憶に新しいかもしれません。

ある産業において、業界大手のA社とB社の合併計画が進められていました。このA社とB社の合併により、競合分野によっては合併会社の市場のシェアが50%を超えていました。顧客企業グループは、合併企業のシェア拡大を背景として価格の引き上げの懸念があるとして、この合併に反対していました。

NERAの役割

NERAは、当該顧客企業グループの依頼を受けて、合併が市場競争に及ぼす影響を予測する経済分析を行いました。

本件の特徴は、①分野によっては合併当事会社の合算市場シェアが50%を超え、競合他社と比較して商品の品質や生産費用の面で圧倒的な優位性を確保している、②合算シェアが50%を超えるような商品の需給は近年逼迫しており価格は一貫して上昇している、③更に、この商品を生産するために必要となる投入物の供給量は限定的であることから、新規参入は困難であり、その規模は限定的になると予想される、④当該市場では、一定のシェアを維持する数社が事実上市場の価格をコントロールする地位にあり、当該合併が起こることによって協調的な価格設定、つまり独占的な価格維持が容易になる可能性が高い、というものでした。

上記のような市場環境では、定性的な情報に注目するだけでも合併を契機とした価格上昇の可能性が高いと考えられますが、NERAはより具体的に価格を引き上げる誘因を、臨界損失分析という手法を用いて立証しました。

その他にも、当事会社グループの効率性向上の主張の問題点を、効率性向上の程度の評価、また、ゲーム理論に依拠した分析を行い、当事会社グループの主張には正当性がないことを明らかにしました。

NERAの合併分析レポートは、各国の競争当局に専門家の意見書として提出されました。

結果

当該合併計画は、重要な競争当局による認可が得られない結果となったため、取下げられました。