電化製品にかかわる特許権侵害紛争

概況

消費者向けの電化製品を製造販売する日本企業A社は、企業B社に、特許侵害で警告を受けました。A社が侵害したと申し立てられた特許群は、A社商品の一部 の機能に関するものであり、A社としては損害賠償額は小さいものと考えていましたが、当該特許は、特定部品の機能ではなく製品の機能に関わるものであった ため、製品全体の販売価格が適用されると損害賠償額が莫大なものになるおそれがありました。NERAは、A社から、特許群の適正な損害賠償額を推定するこ とを依頼されました。

NERAの役割

本件は、マイナーな特許であっても、部品ではなく製品全体の価格が損害賠償額算定の基礎になれば、莫大な損害賠償額の支払いをしなければならないお それがある事案でした。自動車のワイパーに関する特許侵害であれば、通常、自動車全体の価格ではなく、ワイパーの価格が損害賠償額算定の基礎になります が、本件ではワイパーに該当する適当な部品が存在しませんでした。

したがって、侵害が申し立てられた特許群がA社製品の売り上げに実際にどの程度貢献したか、すなわち特許群の寄与率を求めることが本件の鍵となりま した。『実施料率』等に掲載された「相場」の料率を単純に参照した場合、特許群の価値とは乖離した高額な損害賠償額となってしまうことは明らかなため、B 社特許群の個別具体的な特性を考慮した、本当の意味での製品売上への特許の寄与率を求める必要がありました。

NERAは、A社商品が消費者向けの電化製品であることに着目し、A社商品の購入者を対象としたアンケート調査を行うことによって、実際の購入者がA社商 品の購入を決断する際の動機としてB社特許群が貢献したかを調査することにしました。アンケート調査を行うにあたり、本件では調停や法廷に証拠提出する場 合を見越して、規模や内容において、審理に耐えうる品質のアンケート調査を実施しました。
NERAはさらに、A社製品の全機能に占めるB社特許群の機能の割合を算定したり、過去の事例で同様の特許が問題になった際にどのような料率が適用された かを調べたり、米国等の裁判事例において同様の特許が問題になった際に裁判所が示した判断を調べたりして、上記アンケート調査の結果を補強するための経済 分析を提供しました。

結果

A社とB社の交渉は、仲裁や訴訟にもつれ込むことなく、和解で解決することになりました。和解金額は、交渉でB社が示唆した水準をはるかに下回るも のになりました。交渉においてB社が和解金額の引き下げに応じた要因の一つに、B社特許群の特性を考慮したアンケート調査に基づく寄与率の算定があったも のと考えられます。本件は仲裁や訴訟といった第三者による調停に至る前の交渉においても、損害賠償額を厳密に算定しておくことが有用であることを示唆して います。アンケート調査は、法廷での審理に耐えうる品質の調査を行うことが可能であり、このようなアンケート調査に基づく経済分析は、紛争解決のために役 立つことが示されました。

なお、NERAでは、同様のアンケート調査を用いて特許の価値の評価を行い、ライセンス交渉支援の分析も提供しております。